どうもSOLITUDEです。
内容はAOF本編の補足的なもので、前々から話していた桜の話です。
最初は桜の独白による「精神的成長と間桐の家で受けてきた事に対する憎悪からの脱却」
をテーマにするつもりでしたが、視点を変えて
「桜と慎二の過去の出来事から憎悪を打ち消すモノを見つけ出し、それが桜のこれからの成長に関わってくる…」
という感じで仕上げました。
どうしてもシリアスになってしまいましたが、桜と慎二の話としては新しい物に成ったと思います。
設定としては少し捏造した部分もありますが、原作を壊してはいないと思います。
凜ルートでは二人の未来があります、桜ルートでは慎二を憎んだ形で終わります、これはセイバールートの二人の一つの話という所でしょうか?
あと、携帯で作っているので振り仮名のように出来ません。
「子犬の詩」を「こいぬのし」ではなく「こいぬのうた」と読んで欲しいので、子犬の詩[ウタ]としているのですが、そちらで掲載時調整して頂ければ嬉しいです。
他にも
「私の身体」
「自分の所有物」
を「ワタシ」と読んでもらうようにしています。

ザーーーーーーーーーーーーーーー

                              “…

ザーーーーーーーーーーー

                                
      “…ン!

ザーーーーー

              “キャン!”


『?……!!』 

『!?駄目!』

 


ダッパァンッッ!!



『兄さん!!』

 

ザーーーーーーーーーーーーーーーーーーー……………
 
 

 

序章:番外/子犬の(ウタ)




ザーーーーーーーー
 
やっと来たのか。ほら、お前の傘」

「ありがとうございます、兄さん」

下駄箱を出ると、兄さんがつまらなそうな顔をして待っていた。

今朝から雨が降り出し、下校時間の今は雨足も強まって土砂降りとなっている。
登校する時には降っていなかったので、傘を持ってくることを忘れてしまっていた。
どうやら兄さんはそれを知って、傘を届けに来てくれたらしい。

「まったく、今は梅雨で朝は雲が出ていたんだぞ、普通は傘を持って行くだろう?」

「すいません、兄さん」

はぁ、もういい。帰るぞ、桜」

 
 
私は兄さんの後ろについていくようにして歩いている。

その間、私たちは言葉を交わさない。
 
中学になってから兄さんは私に乱暴するようになっていた。
そう、私が地下室で間桐の魔術に馴染むための施術を受けているのを見られた時から

 
 
 
 
『何やってんだよ!?』

『なに、桜は間桐の人間ではないのでな。我家の魔術に馴染ませるための施術をしているだけよ』

『何で桜なんだよ!間桐の魔術師には僕がいるだろう!』

カカカ!まったく、とんだ道化よ。マキリも墜ちる所まで墜ちたという事か。慎二、間桐の魔術回路はお前の父の代で絶えておる。わかるか?お前は魔術師ではない只人なのだ。だからこそ桜を養子としたのだからな』

『!?そ、そんなこと認められるか!僕は間桐の魔術を全て知っているんだぞ!』

『哀れなり我が孫よ。知識だけでは意味を持たん。回路が無ければ、お前がいくら望んだとしても魔術師には成れはせん』

うそだ、
そんなのは嘘だー!!

 

 
 

ごめんなさい

 


 


ごめんなさいだと?ふざけるな!!何で謝るんだよ桜!僕に謝る必要なんか無いだろう!?』

 

 

ごめんなさいごめんなさい…”

 
 

何なんだよ。どうしてそんな顔をするんだよお前は魔術師に成れるんだぞ?僕は成れないのに、お前は成れるんだぞ?そのお前が何でそんな顔をするんだよ


 

ごめんなさいごめんなさいごめんなさい…”


 

『ハハハどうして謝る?どうして悲しい顔をする?どうして魔術師を否定するんだよ?僕は魔術師であることが全てだったんだぞ!!謝るなよ桜笑えよ桜僕を見下して笑ってくれよ桜じゃないと惨めじゃないか僕が僕が望んでいたものを全て持っているお前が笑わなきゃ、僕は惨めじゃないか。お前が笑わなきゃ僕は僕は一体どうすればいいんだよ頼むよ桜、笑ってくれよ
 



“…ごめんなさい



 
 
『ふざけるな!!』



バシッッッ!!



『は、ハハハあーははははははは!!わかった、じゃあ今からお前は僕の物だ。お前の全ては僕の物そうすればいいじゃないか!身体も、魔術回路も、お前が手に入れた間桐の魔術も全て!!』


 

!?だめ!やめて兄さん!いやお願いやめやめてぇぇぇ!!

 

 

 

 

 

ザーーーーーーーーーーーーーーーーーーー……………
 
 

……あれから私と兄の関係は続いている。

始めこそ酷いやり方だったけど、回を重ねるにしたがって幾分和らいではきた。
私の身体( ワタシ)
も施術後には魔力が足りなくなることもあって、その時の疼きを兄の精によって抑えている。

兄は自分の自尊心を満たすために、私は足りない魔力を補うために、それが私たちが体を重ねる理由そこに恋愛感情は無い。

ただ互いの渇きを潤すためだけの行為

 
 
ザーーーーーーーー

 


横を見ると、川がかなり増水していて茶色く濁った水が激しくうねりながら流れている。

未遠川の支流で普段は川幅も狭く、石も少ないので近所の子供達の遊び場になっている川原も、今は濁流の下に沈んでいる。

小さい頃、私と兄さんもよく遊びに来た。お互いに他の友達がいないため二人だけで夕方になるまで遊んだ。
ボール遊びをしたり、縄跳びをしたり、ただ二人で土手に座って他の子が遊んでいるのを眺めたり

あの頃から兄さんは傲慢だったけど、遊んでいる間はあまり言葉を交わさなかったけど、私たちは毎日一緒に遊んだ。
他の子とほとんど変わらずにただ一つ違う事は、私たちが世界の裏側の人間であるということだけ
 

 


ザーーーーーーーー

 

「はぁ、しかし今日は酷い雨だな。川もこんなになっちゃってるし
 

 


ザーーーーーーーーーーーーーーー
                                                 “…

ザーーーーーーーーーーー

                                
     “…ン!

ザーーーーー

              キャン!”


 

「?何だ?な!?ちぃっ、桜!お前はここにいろ!!」

濁流のうねる音の中から微かに鳴き声がしたかと思うと、兄さんは鞄と傘を放り投げ土手を駆け下りて川原に向かった。

「!?駄目!」

咄嗟に呼び止めた、けど兄さんはそのまま戸惑う事無く川に飛び込んでしまった。

 


ダッパァンッッ!!

 


茶色い水柱が上がり、兄さんは濁流に飲み込まれていった。
 

 


「兄さん!!」

 


下流に向かって土手の上を走る。

「兄さん!兄さん!あっ

よく見ると小さな段ボール箱が流されていて、その中に白いモノが見える。

(
あれは犬?)

さっきの鳴き声はあの犬のものだろう。

兄さんはあの犬を助けるために飛び込んだんだ

「ぷはぁ!」

「…!兄さん!」

あの段ボール箱のすぐ近くに、兄さんが顔を出した。

そのまま箱を掴むと流されながらも浅瀬まで泳ぎ着き、箱を両腕で抱えながら土手を登ってきた。
 
「がはっ!げほっ!はぁはぁ

だいぶ水を飲んだようで、膝をついて咳き込んでいる。

「兄さん!大丈夫!?」

「げほっあぁ、何とかね。それにこいつも

そう言って箱の中からまだ生まれて間もないような白い子犬を抱き上げた。

「ははは、もう大丈夫だよ。怖かったろう?それにこんなに体が冷えてすぐに温かい場所に連れていってやるよ」

兄さんは子犬の頭を撫でると、そのまま立ち上がり歩きだした。

「あっ兄さん、これ

私は鞄からタオルを取り出すと兄さんに渡した。

「ん?あぁ」

兄さんはそのまま渡されたタオルで子犬を包んだ。

「よし、これで少しはマシだろう。さてと、桜。ちょっと僕の友達の家に行くよ」

 

 

 

 

「!?おい!どうしたんだ?ずぶ濡れじゃないか!」

「あはは、ちょっと川に落っこちちゃってさ。それよりも衛宮、このままじゃ風邪ひいちゃうよ、タオルを貸してくれよ」

「わかった、取ってくるから待ってろよ」 

 

兄さんに連れられてやってきたのは、ちょうど商店街を挟んで間桐の屋敷の反対側にある、大きな日本家屋だった。

でも、おかしい。

この屋敷には結界が張られている

(
どうして?この町には間桐と遠坂しか魔術師はいないはずなのに…)

「おい桜、そんな所にいないでお前も来いよ」

「いえ、私は

「悪い、待たせたな…ほらよタオルだ。ん?慎二、その娘は誰だ?」

「あぁ桜!」

はい」

結界の事が気になるけど私は玄関の中に入った。 

 

「紹介するよ、前に話した僕の妹の桜だ」

「妹の桜です

「へぇ〜桜ちゃんか、可愛い娘じゃないか」

「おいおい衛宮、なんかいやらしいぞ、お前」

「!?バカッ!何言ってやがる!」

「あはは、冗談だよ」

そう言って赤茶色の髪をして、まだ幼さが残っている人懐っこい顔をした青年と兄さんが話している。

(
この人は魔術師?それにしては感じられる魔力が少ないし家の中には魔術的な物も無い…)

「ったく初めまして、慎二の同級生の衛宮士郎だ。宜しく、桜ちゃん」

「あっはい、宜しくお願いします」

「…?なぁ慎二、その持っているのは何だ?」

「あぁ、こいつは

“ク〜ン、キャウ”

「子犬!?どうしたんだよ、それ!それにこいつも濡れているじゃないか!とりあえず居間を暖めるから、上がれよ二人共」

「あーいや、僕達はすぐに帰るから。それよりも衛宮、こいつをしばらく預かってくれないか?うちには連れて行けなくてさ」

「え?いいけどわかった、とりあえず帰ったら電話してくれよ」

「悪いね衛宮、後でかけるよ。さぁ、帰るよ桜」

はい、お邪魔しました」

「あぁ、桜ちゃんもまたね」 

 

彼の家をあとにした私達は、屋敷に向かう坂を登っている。

兄さん、あの人は

「あぁ、中学からの知り合いでね、お節介な奴なんだよ。あと、あいつは魔術師じゃあないさ。あいつの養父が魔術師だった、あの屋敷は養父の物だったのさ」

「そうですか

「ンッキシ!しまった身体が冷えてきた。おい桜、僕は先に行くからな」

そう言うと兄さんは駆け足で坂を登って行った。


 
 

 
あれから数日、兄さんは風邪をひいて寝込んでしまい、私は兄さんの看病をしている。
 
 

ブーン、ブーン、ブーン

枕元に置いてあった兄の携帯電話が震えている。

「兄さん、携帯が震えていますよ」

「んあー、もしもし衛宮。あぁ、だいぶ良くなったよ。それであいつは………そうかぁ、良かった。いろいろ悪かったね、ありがとう。あぁ、またね」

兄さん、今のは?」

「あの子犬の引き取り手が見つかったってさ。僕があれから寝込んでいたから、あいつが代わりに探していてくれたのさ。まったく、他人の世話をやくのが好きな奴だよ」

そう言って笑う兄の顔は、この数年で見る事が無かった晴れやかな笑顔だった。

兄さん」

「ん?どうした桜?」

いえ、良かったですね。私もそろそろ部屋に戻りますね」

兄の笑顔を見た時、私の心の中に黒いモノがチラついた。
 
 

どうして兄さんは子犬一匹にあそこまでできるの?私には優しくしてくれないのに、どうして
 


あっ、桜」

 

(
えっ)
 
 

お前にも迷惑かけたな悪かったあ、あとありがとな」 

 
 
一瞬時が止まる。

あの兄が、自分の所有物(ワタシ)に礼を言うなんて
 
チラついていたモノは消え失せた。
でも
 
くっ、あはは、あはははは!」
  
笑い声を抑える事はできなかった。

「!なっ!桜お前、何笑ってるんだよ!」

熱で赤い顔をさらに赤くして兄が怒鳴る。

でも、それがさらに笑いを誘う。

「あははははーふぅ、すいませんでした兄さん。ただ、ちょっと残念だなって思ってクスクス、今の兄さんになら抱いてもらっても良いかなって、思っているのにって

「えっ?桜
 
「それじゃあ、お休みなさい、兄さん」
 
私は惚けている兄を残して部屋を出た。
 
 
 

 
サー…………………

 

 …
今でも雨の日はあの出来事を思い出す。
  
私が兄さんと過ごしていて、少しだけ兄さんの優しさと愛情を感じた日。
そして、私も兄さんへの愛情が残っているのを感じた日
 
ただ今日は、あの日とは違ってパラついている程度の小雨だ。
その代わり凍えそうな程寒いけど

 
  
「ごめんなさい桜。待たせたわね」
 
白い息を吐きながら、姉さんが小走りで歩み寄ってきた。
 
「いえ、それにしても寒いですね」
 
「そうね、夕方からは雪だっていうし。早く買い物を済せて士郎の家に行きましょう」
 
「はい、今晩はどうするんですか?」
 
「やっぱり寒い時にはマーボ
 
「却下です」
 
「もう、そんなに辛くしないわよ」
 
「そう言って、この前は姉さん以外み〜んな失神したんですよ?」
 
「あはは〜」
 
「笑って誤魔化さないでください」
 
「あっ!ほら、雪が降ってきたわよ、桜」
 
「もう、すぐそうやって逃げるんですから。あっ
 
「どうしたの?桜」
 
「い、いえ!ただその姉さんと腕を組んでみたいなーって思って
 
「へっ?あっう、い、いいわよ。はい」
 
「ありがとうございます。姉さん
 
二人で顔を真っ赤にしながら腕を組み、一つの傘に身を寄せ合った。

  

振り返って思い出すのは、暗い虫蔵と虫たちの羽音に足音、私を罵倒する兄の声

 
けどその暗闇に、兄さんと普通の兄弟のように過ごした思い出が隠されながらも残っている。
 
 
 
そして今は腕に姉さんの温もりが感じられ、私を受け止めてくれる温かい家がある。

  

雪は、まるで私と姉さんの距離を近づけてくれるように優しく、温かに降り注ぐ。

私たちは鼻の頭と頬を赤く染めながら、互いの温もりを離さないように少し強く腕を組み、雪が降り注ぐ街並みを眺めながら坂を下って行った。
 
 

 

………また一つ、“わたしたちの”思い出が増えていく………


 
  

END

 



管理人より
       新作の投稿ありがとうございます。
       この兄妹にしては珍しくしんみりした空気の作品で良かったと思います。
       また、長編の新作も気長に待たせてもらいます。

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